東京高等裁判所 平成2年(行ケ)146号 判決 1992年6月23日
フテンス国
オー・ド・セーヌ 九二八〇〇
ビユトークール・ミシユレ 四及び八 ラ・デフアンス一〇
原告
エルフ アトケム エス アー
右代表者
ミシエル・ロツシエ
右訴訟代理人弁理士
川口義雄
同
中村至
同
船山武
東京都千代田区霞が関三丁目四番三号
被告
特許庁長官
深沢亘
右指定代理人通商産業技官
茂原正春
同
加藤公清
同通商産業事務官
廣田米男
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
「特許庁が昭和六二年審判第一八六一五号事件について平成二年二月一日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
二 被告
主文第一、二項同旨の判決
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
訴外プロデユイ シミク ユージヌ クールマンは、昭和五四年二月五日、名称を「無色でかつ安定なイソホロンの製造方法」とする発明(以下「本願発明」という。)について、一九七八年二月七日及び同年一二月八日にしたフランス国への特許出願に基づく優先権を主張して特許出願(昭和五四年特許願第一一五一四号)したところ、昭和六二年六月四日拒絶査定を受けたので、同年一〇月一九日査定不服の審判を請求し、昭和六二年審判第一八六一五号事件として審理された結果、平成二年二月一日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年三月一四日審判請求人に送達された。なお、審判請求人のための出訴期間として九〇日が附加された。
原告(旧名称クロエ シミク)は、一九八三年九月三〇日出願人である訴外プロデユイ シミク クユージヌ クールマンを吸収合併して本件出願に係る特許を受ける権利を含むすべての権利義務を承継するとともに、名称をアトケムと改称し、平成二年八月二三日特許庁長官に対しその旨の届出をし、その後一九九二年一月一日名称をエルフアトケム エス アーと変更した。
二 本願発明の要旨
合成工程で得られた粗イソホロン含有混合物を蒸留して、アルカリ性薬剤、アセトン及び存在する水の大都分を除去し次いで的記蒸留工程から得られたイソホロン含有混合物を加熱下、酸型イオン交換樹脂で接触的に処理することにより無色でかつ安定なイソホロンを製造する方法において
イ 前記イオン交換樹脂による処理工程からの流出液を過剰のアルカリ性薬剤で処理し
ロ 前記工程イで得られた混合物中の過剰のアルカリ性薬剤を中和して、該混合物のpHを六・五~七とし
ハ 前記工程ロで得られた混合物を、前記アルカリ性薬剤の添加によつて生成した塩を溶解させるのに十分な量の水で洗浄し
ニ 前記工程ハで得られた混合物から水性層を分離して、水分含有量が一%以下の有機混合物層を得
ホ かく得られた有機混合物層を減圧下で蒸留し
ヘ 無色でかつ安定なイソホロンを、前記有機混合物層の蒸留装置への供給口より上方の位置で回収することを特徴とする無色でかつ安定なイソホロンの製造方法(別紙図面一参照)
三 審決の理由の要点
1 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。
2 これに対し、昭和四九年特許出願公告第四八四二四号公報(以下「引用例」という。)には、粗イソホロンを、第一の蒸留塔において高沸点不純物を塔底生成物として除去し、回収した塔頂生成物を酸触媒と接触させた後、第二の蒸留塔において蒸留し、実質的に精製されたイソホロンを回収することを特徴とするイソホロンの精製方法(別紙図面二参照)が記載されており、減圧下で蒸留する点、酸触媒としてはイオン交換樹脂が好適である点も開示されている。
3 そこで、本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、両者は、粗イソホロンを減圧下で蒸留-酸型イオン交換樹脂による接触的処理-蒸留という一連の工程に付すことによりイソホロンを精製するものである点で一致し、次の点で相違する。
<1> 本願発明においては、第一の蒸留塔で、アルカリ性薬剤、アセトン、水の低沸点不純物を塔頂生成物として除去し、第二の蒸留塔で、供給口より上方の位置で目的物であるイソホロンを回収することにより塔底生成物である高沸点不純物から分離するものであるのに対し、引用例記載の発明においては、第一の蒸留塔で、高沸点留分を塔底生成物として除去し、第二の蒸留塔でイソホロンを塔の仕込導入位置より下の点から回収することにより、低沸点不純物から分離するものである点
<2> 本願発明においては、イオン交換樹脂による処理工程からの流出液を、アルカリ性薬剤処理-中和処理-水洗浄-水性層の分離というイ~ニの処理を行つた後、第二の蒸留を行うものであるのに対し、引用例にはそのような処理に関する記載は見当たらない点
4 前記相違点について検討する。
相違点<1>について
一般に、粗原料より不純物を除去し、目的物を精製しようとする場合、二段の蒸留により高沸点不純物と低沸点不純物をそれぞれ除去することは、普通に行われていることであつて、その際、どちらかの不純物を先に除去するかというようなことは、当業者が必要に応じて適宜採用し得ることであり、また明細書の記載をみても、本願発明が低沸点不純物を先に除去することによつて特別の効果を奏するものとは認められない。
したがつて、この点は、当業者が容易に選択し得る程度の差異といえる。
相違点<2>について
第二の蒸留前の段階でアルカリ処理及びそれに付随する中和、水洗等の処理を行う技術的意味は不明瞭であり、酸型触媒を使用していることにより、結果として酸性となつたものを中和する程度のことであるならば、当業者が必要に応じて容易になし得ることといわざるを得ない。
そして、明細書の特許請求の範囲には、本願発明は無色でかつ安定なイソホロンを得る方法である旨記載されているが、アルカリ処理等を行わない参考例及び実施例の測定結果で比較してみると、第二の蒸留塔から目的物のイソホロンを回収した時点での着色度は同等であり、安定性についても、参考例及び実施例との保存条件が同一でないため、アルカリ処理等の処理を採用したことによる効果を確認することができない。
また、本願発明がその他の点で優れた効果を有するものとも認め難い。
したがつて、イ~ニの処理を採用する点に格別の困難性があつたものとも認め難い。
してみれば、二つの相違点はいずれも格別のものとすることができず、当業者が容易に想到し得た程度のものとするのが妥当である。
5 以上のとおりであるから、本願発明は、引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができない。
四 審決の取消事由
引用例に審決認定の技術内容が記載されていること、並びに本願発明と引用例記載の発明との一致点及び相違点が審決認定のとおりであること(ただし、相違点<1>について、本願発明は「アルカリ性薬剤を塔頂生成物として除去し」との点を除く。)は認めるが、審決は、本願発明の技術的意義を誤認した結果、両者の相違点<2>及び<1>の判断を誤り、かつ本願発明の奏する顕著な作用効果を看過したものであつて、違法であるから、取り消されるべきである。
1 相違点<2>の判断の誤り
審決は、相違点<2>について、「第二の蒸留前の段階でアルカリ処理及びそれに付随する中和、水洗等の処理を行う技術的意味は不明瞭であり、酸型触媒を使用していることにより、結果として酸性となつたものを中和する程度のことであるならば、当業者が必要に応じて容易になし得ることといわざるを得ない。」と、認定、判断している。
しかしながら、本願明細書には、イの過剰アルカリによる処理は、脱色した反応器排出液中に存在する酸の中和を完全にする(第一五頁第一行、第二行)ためであり、ロの中和はイソホロンの重合現象防止(第一六頁第二行ないし第四行)のためであり、ハの水洗浄及びニの水性層の分離は塩除去上の便宜(同頁第一二行ないし第一四行)を目的とし、ホ及びヘの減圧蒸留操作は無色・非酸性の商品となるイソホロンを得る(第一七頁第七行ないし第九行)仕上精製手法であることが記載されているから、本願発明においてこれらの工程を存在せしめた意義は明細書の右記載から明らかであるが、これをさらに詳述すると次のとおりである。
脱色反応器からの排出液中には、イソホロンより僅かに揮発性の高い、若干酸性を示す物質が一種ないし数種含まれている。かかる酸性物質は脱色したイソホロンの保存性を妨げ商品価値を損なうので効率的に除去することを要するところ、引用例記載の発明を含めた従来技術にあつては、たとえ脱色操作が施されていてもこの種の酸性物質を除去する段階がないため、保存中の品質劣化を避けることができなかつた。
本願発明は、イないしヘの工程を付加することにより酸性物質を効果的に除去するという技術的課題(目的)を達成したものである。すなわち、まずイの過剰アルカリによる処理では、水に難溶の酸性物質が中和されて水に溶け易いアルカリ塩に変化するが、剰余のアルカリのためアルカリ性になつている。しかし、アルカリ性のままホ及びヘの減圧蒸留操作に進むと、主成分のイソホロンが重合して別の不純物となり収率低下を来すので、ロの逆中和で糸を中性ないし微酸性にする。右イとロを併用することにより酸性物質を完全に中和ししかも系がアルカリ性になるのを避けるという一見矛盾した要求が満たされたのである。ハの水洗は、前工程で得られた水溶性の塩をなるべく少量の水と接触させてこれに溶解させ、水とイソホロンの密度差を利用してニで分離する。ホ及びヘの減圧蒸留操作は、高沸分を塔底から分離して仕上精製する操作である。
したがつて、本願発明においてイないしヘの工程による処理は無色でかつ安定なイソホロンを得るため必須である。
しかるに、審決は本願発明におけるイないしヘの工程の右技術的意義を看過し、「中和、水洗等の処理を行う技術的意味は不明瞭で」あると誤つて認定した結果、「酸型触媒を使用していることにより、結果として酸性となつたものを中和する程度のことであるならば、当業者が必要に応じて容易になし得ることといわざるを得ない。」と判断したものであつて、その説示は前提において誤つている。
この点について、被告は、一般有機化合物において、酸を除去するためアルカリ処理することは、本件出願当時の技術常識である旨主張する。被告の右主張は一般的には認めるが、本願発明においては合成工程がアルカリ性薬剤の存在下で行われるから、右技術常識から、相違点<2>に係る本願発明の構成を採用することが当業者に容易であるということはできない。
また、被告は、右アルカリ処理を行う技術的意義を確認するには、本願発明と引用例記載の発明と比較するのが第一義であるが、これと軌を一にする本願明細書記載の参考例(以下単に「参考例」という。)の精製方法と比較することも不適当とはいえないとし、本願発明の実施例(以下単に「実施例」という。)と右参考例との間にアルカリ処理を行うことによって着色度及び安定度において作用効果上顕著な差異はない、と主張する。
しかしながら、参考例7ないし9では、蒸留による重質分除去処理が施された粗イソホロンから出発して、これにさらに精密蒸留を経ているから、合計四回蒸留されているのに対し、引用例記載の発明では二回の蒸留しか行われていないから、参考例から引用例記載の発明の製品品質を推定することはできない。
また、仮に被告主張のように、本願発明の実施例については塔頂(供給口より上方の位置にある商品たるイソホロンの取出口)の採取資料、参考例については管8の採取資料をもつて対比しても、酸度についてみると、最低でも一〇%(参考例8と実施例1との比較)、最高では六二・五%(参考例9と実施例2との比較)の差があり(ただし、参考例8の酸度についての被告の主張は認める)、これに参考例では少なくとも四回蒸留を行つており、引用例記載の発明よりはるかに高度に精製されていることをも考慮すると、本願発明の奏する作用効果は極めて顕著であることが明らかである。
2 相違点<1>の判断の誤り
まず、審決は、相違点<1>について「本願発明においては、第一の蒸留塔で、アルカリ性薬剤、アセトン、水の低沸点不純物を塔頂生成物として除去し、第二の蒸留塔で、供給口より上方の位置で目的物であるイソホロンを回収することにより塔底生成物である高沸点不純物から分離するものである」と認定している。
しかし、アセトン、水は低沸点不純物であつて塔頂生成物として除去することができるが、アルカリ性薬剤は不揮発性であるのでこれを気化させて蒸留塔頂より除去することはできない。本願発明では低沸点不純物を塔頂から除去する蒸留と高沸点(不揮発性)不純物を塔底から除去する蒸留との二操作を必要とする。すなわち、イ以下の付加工程に入る前に既に第二の蒸留がなされているのである。そして、本願発明ではイで生じる着色不純物が中和されてなる不揮発性の塩のうち、ハないしニの操作で除き切れなかつた分を除くためにホ及びヘにおける高沸点不純物のための蒸留操作が行われる。
これに対し、イに相当する工程のない引用例記載の発明ではそもそも塩が発生していないから、引用例記載の発明に基づいて塩除去の工程を選択することはできない。引用例記載の発明のように最後の蒸留を低沸点除去の条件下で実施すると、除去を意図した塩がそのまま製品に入つてしまい、高純度のイソホロンを得ることができない。
したがつて、本願発明における工程願序の設定が引用例記載の発明に基づいて容易に選択し得る程度の差異である、とした審決の判断は誤りである。
この点について、被告は、前記相違点<1>の認定における「第一の蒸留塔で、アルカリ性薬剤(中略)の低沸点不純物を塔頂生成物として除去し」は「塔頂又は塔底生成物として除去し」の誤記である旨主張する。
しかしながら、アルカリ性薬剤は低沸点不純物ではなく、また第一の蒸留塔の除去対象ではない。本願発明では酸型イオン交換樹脂処理前にアルカリ性薬剤等の非低沸点不純物を除く第二の蒸留がなされるから、右のように訂正するとしても審決の認定は誤りであり、本願発明はホ、ヘと合わせ最低三回の蒸留がなされる点において引用例記載の発明と基本的に相違する。
3 本願発明の奏する作用効果の看過
審決は、本願発明によつたからといつて、格別優れた効果がもたらされるものではない、と判断している。
しかしながら、本願発明によつて得られるイソホロンの安定性の評価手法に一部直接対比が困難なところがあつたことは認めるが、資料採取位置を参考例でいう10とし、酸度に注目すれば、実施例と参考例とでは大差のあることが明らかである。すなわち、イないしニの工程を欠く参考例7ないし9における酸度はそれぞれ〇・〇五%、〇・〇四%、〇・〇八六%であるのに対し、実施例1は〇・〇〇一八%、実施例2は〇・〇〇一五%であり、しかも、実施例2の製品は四〇日間明所に栓をして保管した後もその酸度は〇・〇〇三一%であつた。
また、参考例7ないし9では、合計四回蒸留されているのに対し、引用例記載の発明では二回の蒸留しか行われていないから、参考例から引用例記載の発明の製品品質を推定することはできないこと、仮に被告主張のように、本願発明の実施例については塔頂の採取資料、参考例については管8の採取資料をもつて対比しても、酸度についてみると、本願発明の奏する作用効果は極めて顕著であることが明らかであることは、前記1に述べたとおりである。
しかるに、審決は、本願発明の奏するこのような顕著な作用効果を看過したものである。
第三 請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一ないし三の事実は認める。
二 同四の審決の取消事由は争う。審決の認定、判断は正当であつて、審決に原告主張の違法は存しない。
1 相違点<2>について
本願発明の技術的課題(目的)は、公知の製法によつて得られるイソホロンは通常の蒸留によつては分離し難い黄色を呈する物質(複数の化合物よりなる混合物。以下「難分離物質」という。)を含有し、またこれらの難分離物質はイソホロンを変色させ易いものであることから、これら難分離物質を分離除去(精製)して無色、澄明なイソホロンを得ようとすること(本願明細書第四頁第二行ないし第五頁第一行)である。
しかし、このような技術的課題は本件出願前公知であつた。このことは、引用例の第一欄第二九行・第三〇行、第二欄第七行ないし第二九行、第三欄第二二行ないし第二五行、第四欄第二二行ないし第二四行、同欄第三三行ないし第三五行の各記載、及び昭和五二年特許出願公開第五一三四二号公報(乙第五号証)の記載事項から明らかである。
そして、酸型イオン交換樹脂、すなわちH+型イオン交換樹脂を用いた場合、イソホロンを該樹脂と接触させることによりイソホロン中に含まれている不純物(難分離物質)の一部とイオン交換が行われH^+^^(水素イオン)が脱離し、イソホロンを酸性に汚染するであろうことは当たり前のことであるから、イソホロンを酸型イオン交換樹脂と接触させた後の不純物の着色度のほかに酸性度(酸度)にも着目することは技術的にみて格別のことではなく、その場合一般有機物において、酸を除去するためアルカリ処理することは、本件出願当時の技術常識である。
審決が相違点<2>について、「第二の蒸留前の段階でアルカリ処理及びそれに付随する中和、水洗等の処理を行う技術的意味は不明瞭であり」と判断したのは、イないしニの個々の単一操作の技術的内容が不明瞭であるという意味ではない。各単一操作そのものは周知の手段であり、その作用も明らかであるが、本願発明においては第二の蒸留前の段階で右各単一操作を施すことによつて特に優れた作用効果が奏されるものとは認められないためイないしニの単一操作を第二の蒸留前の段階に加えてみることの技術的意義を見いだせないという意味である。
すなわち、引用例には粗イソホロンを蒸留し、酸触媒(イオン交換樹脂を含む)と接触させ、次いで蒸留して得られた精製イソホロンが高純度かつ透明、水のごとき白さを呈する旨記載されている(第一二欄第一行ないし第三二行)。本願発明は、粗イソホロンを蒸留、酸型イオン交換樹脂との接触処理及び蒸留という一連の工程に付することによりイソホロンを精製するものであるという点で引用例記載の発明と軌を一にし、酸型イオン交換樹脂処理の後でアルカリ処理及びそれに付随する中和、水洗等の処理を行うイないしニの工程の点で引用例記載の発明と相違するところ、本願発明の精製イソホロンが引用例記載の発明におけるそれに比して着色度及び安定度の点において特に優れていると認めるに足りる資料データが提示されていない。右アルカリ処理等を行う技術的意義を確認するには引用例記載の発明と比較することが第一義であるが、引用例記載の発明と精製方法を同じくする参考例の精製方法とを比較することによつてもその作用効果を確認することができる。そこで、実施例1にいう塔頂から取り出したものと参考例8において管8から取り出したものとの酸度を比較する(参考例9は参考例8に比し着色度及び酸度の点で劣るから、本願発明と対比すべき適切な例ではない。)と、両者の単純な算術差は〇・〇〇〇二%であつて、その相対差が単純な算術計算で一〇%であることは格別有意の差ではない。しかも、参考例8の酸度は〇・〇〇二%と小数第三位まで測定されているのに対し、実施例1の酸度は〇・〇〇一八%と小数第四位まで測定されているところからみて、参考例8の酸度〇・〇〇二%という数値は小数第四位が四捨五入されている可能性が大きいことを考慮すれば普通〇・〇〇一五%ないし〇・〇〇二四%の範囲内にあり、実施例1の酸度はこの範囲に包含されることになること、及び測定値自体が微小な数値であり実験誤差が考慮されることよりすれば、その差異は格別有意のものでないことが明らかである。
したがつて、本願発明において相違点<2>について、「第二の蒸留前の段階でアルカリ処理及びそれに付随する中和、水洗等の処理を行う技術的意味は不明瞭であり」、本願発明の相違点<2>に係る構成を採用することは、当業者が必要に応じて容易になし得ることとした審決の認定、判断に誤りはない。
2 相違点<1>について
相違点<1>についての審決の認定中「前者(本願発明)においては、第一の蒸留塔で、アルカリ性薬剤、アセトン、水の低沸点不純物を塔頂生成物として除去し」は、本願発明の要旨の一部である「合成工程で得られた粗イソホロン含有混合物を蒸留して、アルカリ性薬剤、アセトン及び存在する水の大部分を除去し」を表現したものであるから、「塔頂」は「塔頂又は塔底」の誤記であることは明らかである。
そして、右認定部分は第一次の蒸留処理、すなわち酸型イオン交換樹脂による接触的処理前の蒸留処理に相当するものであり、この場合の蒸留処理は本願明細書の記載(第六頁末行ないし第八頁第一九行、第三三頁下から第九行・第八行)からも明らかなように複数の蒸留塔による蒸留処理であつて、被除去不純物をすべて一の蒸留塔で(一操作で)除去することをいうのではない。
原告は、本願発明では酸型イオン交換樹脂処理前にアルカリ性薬剤等の非低沸点不純物を除く第二の蒸留がなされるから、ホヘと合わせて最低三回の蒸留がある点において引用例記載の発明の工程とは基本的に相違する旨主張する。
しかしながら、本願発明においては、粗イソホロンからのアルカリ性薬剤、アセトン及び存在する水の大部分の除去は、酸イオン交換樹脂で接触的に処理する前に行えばよいのであつて、その際の蒸留塔の数を限定するものでないから、原告の右主張は要旨に基づかないものであつて失当である。
また、引用例に開示された蒸留塔11に線10を通じて供給される粗イソホロン流(第五欄第七行)は、<1>例1の仕込物の組成(第八欄第三六行ないし第四三行)からみて通常反応生成混合物中にその存在が避けられない水やアセトン等の低沸点不純物がほとんど含まれていないこと(ちなみにアルカリ性薬剤も含まれていない)、<2>一般にこの種アセトンの縮合反応によるイソホロンの製造においては、イソホロンを含む反応生成混合物は、トツピング処理(揮発性の高い部分を蒸留より除くこと)や、テイリング処理(減圧蒸留により高沸点部分を除くこと)によつて純化されるものであること(昭和五二年特許出願公開第五一三四二号公報第三頁左上欄第六行ないし第一一行、本願明細書第六頁第二〇行ないし第七頁第五行)から、少なくとも一回以上の蒸留処理が施されているものとみるのが相当である。そうであれば、引用例記載の発明においては三回以上の蒸留がなされているものであり、具体的な例での蒸留回数についてみても両者は特に異なるものではない。
したがつて、相違点<1>は単なる蒸留操作の順序の選択にすぎないから、当業者が必要に応じて適宜採用し得ることとした審決の判断に誤りはない。
3 本願発明の奏する作用効果について
原告が資料採取位置として主張する各参考例でいう10の位置は、塔頂から凝縮蒸気の一部を排出させる位置であつて、製品となるイソホロンの取り出し位置、すなわち管8ではないから、原告の主張は本願発明の作用効果を判断するに当たつて対象とすべき参考例の採取資料の選択を誤つている。また、実施例2と参考例とでは採取資料の保管条件が異なつているから、実施例2の製品は四〇日間明所に栓をして保管した後もその酸度は〇・〇〇三一%であつたからといつて、実施例の製品が参考例の製品より優れていることにはならない。
そして、実施例1にいう塔頂から取り出したものと参考例8において管8から取り出したものとの酸度を比較すると、格別有意な差異がないことは、前記1において述べたとおりである。
第四 証拠関係
証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
理由
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本願発明の要旨)及び同三(審決の理由の要点)の各事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由について判断する。
1 成立に争いのない甲第二号証の一ないし三によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。
(一) 本願発明は、着色しているイソホロンをイオン交換樹脂で処理し、これを中和し、形成された塩を水で抽出した後、イソホロンを精溜して無色・非酸性のイソホロンを得る方法に関する(本願明細書第三頁第一七行ないし第四頁第一行)。
高温高圧下でアセトンをアルカリ縮合することによりイソホロンを調製する方法は公知であるが、この方法では、イソホロンの他に蒸留によつて分離が困難な揮発性の化合物(二次生成物)が生じ、これらの化合物は濃い黄色に着色しているため商品として価値のある無色のイソホロンを得ることができないだけでなく、これらの化合物の存在により着色の漸進的な増大、酸度の上昇が促進される(同第四頁第二行ないし第一六行)。
本願発明は、これらの化合物を除去でき、澄明かつ無色でしかもこれらの性質を貯蔵中失わない製品を得ること(同第四頁第一七行ないし第五頁第一行)を技術的課題(目的)とするものである。
(二) 本願発明は、前記技術的課題を解決するために本願発明の要旨(特許請求の範囲第一項)記載の構成(昭和六二年三月三〇日付け手続補正書第三頁第二行ないし第四頁第五行)を採用した。
(三) 本願発明は、前記構成により、前記(一)の欠点のない、かつ完全に規定された工業製品を使用して、特に簡単な方法で、無色の酸性度の低い、長期間貯蔵してもその性質を保持し得るイソホロンを得る(本願明細書第六頁第八行ないし第一一行)という作用効果を奏するものである。
2 引用例に審決認定の技術内容が記載されていること、並びに本願発明と引用例記載の発明との一致点及び相違点が審決認定のとおりであること(ただし、相違点<1>について、本願発明は「アルカリ性薬剤を塔頂生成物として除去し」との点を除く。)は当事者間に争いがない。
原告は、審決は、本願発明の技術的意義を誤認した結果、両者の相違点<2>及び<1>の判断を誤り、かつ本願発明の奏する顕著な作用効果を看過したものであつて、違法であるから、取り消されるべきである旨主張するので、まず、相違点<2>について検討する。
前掲甲第二号証の一ないし三によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載が存することが認められる。
「脱色反応器からの排出液はイソホロンよりも僅か揮発性の高い・若干酸性を示す物質を一種又は数種含有している。これらの物質は、脱色したイソホロンを分離する際これにある程度留意しないと再生する。好ましくない酸性物質の存在により脱色したイソホロンの良好な保存が妨げられ従つて製品が急速に現行の規格に適合しないものとなるため市販不能となる。」(本願明細書第一二頁第一六行ないし第一三頁第四行)
「この方法はイソホロン中に存在している酸を中和し、その結果生じた塩を水洗により抽出し、精溜により商品となるイソホロンを分離することからなる。〔前記工程イ~ヘ参照〕脱色した反応器排出液中に存在する酸の中和は完全に行なう必要がある。従つて中和剤を僅かに過剰に使用することが必要である。化学当量として必要な中和剤の量より一五%過剰に使用することが適当である。(中略)上記方法によりアルカリ性にした混合物を直接蒸留した場合はイソホロンの重合現象を起こす惧れがある。(中略)上記種々の中和操作の途中でナトリウム塩が生じ従つてこれを媒体から除去しなけれはならない。塩の除去は水の添加によつて好都合に実施される。(中略)塩の溶解は混合物の撹拌により容易に行われ、引続いて傾瀉を行なう。水相はその全量をまずストリツプ塔に送り、ここで溶解イソホロンを回収し、有機層を蒸留する。この蒸留においては、まず第一に塔頂での連続蒸留によつて、予め軽質分を除去することなしにヘテロ共沸により水を除き、次に引続いて無色・非酸性の商品となるイソホロンを得ることができる。」(本願明細書第一四頁第一七行ないし第一七頁第八行、平成一年七月二八日付け手続補正書第四頁第四行、第五行)。
本願明細書の右記載事項によれば、本願発明は、脱色反応器からの排出液中にはイソホロンよりも僅か揮発性の高い・若干酸性を示す物質が一種又は数種含まれており、この酸性物質の存在により脱色したイソホロンの良好な保存が妨げられているとの知見の下に、この酸性物質を除去するため前記イないしニの工程を付加し、さらに残存有機物を除去するためホの工程を行うことを発明の要旨としたものと認められる。そして、イソホロンの精製方法において、本件出願前酸を除去するためイないしニの工程を行うことが公知であつたと認めるに足りる証拠はない。
しかしながら、一般有機化合物において、酸を除去するためアルカリ処理することは、本件出願当時の技術常識であつたことは、当事者間に争いがなく、不純物である を完全に捕捉するためには過剰のアルカリが必要であり、またそうすれば必然的に余剰のアルカリを除く必要が生じ、そのため余剰アルカリを中和して水洗浄によつて除去することも周知のアルカリ処理から当然わかることであり、これらのことは原告主張のような特別の意義のあるものではない。
したがつて、イソホロンの精製方法においてこの工程を付加したものがないからといつて、直ちにその技術的意義を肯定することはできない。本願発明がイないしニの工程を付加したことの技術的意義を認めるためには、本願発明によつて得られたイソホロンの酸度がこの工程を行わない引用例記載の発明等の従来技術よりも低く、その点において作用効果が顕著であることが立証されることを必要とするというべきである。
ところで、成立に争いのない甲第三号証を検討しても、引用例には同記載の発明によつて得られたイソホロンの酸度についての記載は存せず、ほかにこれを立証する証拠はない。かえつて、同号証によれば、引用例記載の発明によつて得られたイソホロンは極めて純度の高い(九八十%ないし九九十%の純度の)イソホロンであつて、その酸度が本願発明に比べて劣るものとは認め難い。
この点について、原告は、審決取消事由3において、本願発明で得られるイソホロンの安定性の評価の手法に一部直接対比が困難なところがあつたことは認めるが、資料採取位置を参考例でいう10とし、酸度に注目すれば、実施例とイないしニの工程を付加しない参考例とでは大差のあることが明らかである旨主張する。
しかしながら、前掲甲第二号証の一によれば、各参考例でいう10の位置は、塔頂から凝縮蒸気の一部を排出させる位置(本願明細書第二七頁末行、第二八頁第一行)であつて、製品となるイソホロンの取出し位置でないこと、右取出し位置は管8である(同第二七頁第一七行ないし第一九行)ことが認められるから、資料採取位置を参考例でいう10として実施例との酸度を対比することは誤りである。
また、原告は、実施例2の製品は四〇日間明所に栓をして保管した後もその酸度は〇・〇〇三一%であつた旨主張するが、前掲甲第二号証の一によれば、参考例における保管方法はイソホロンを明所で開放瓶中に保管したのに対し、実施例2では明所で栓をした無色ガラスに保管したものであつて保管条件を異にするから、これによつて保管時間の経過による酸度の低下を対比することはできない。
さらに、原告は、本願発明の実施例については塔頂(供給口より上方の位置にある商品たるイソホロンの取出口)の採取資料、参考例については管8の採取資料をもつて対比しても、酸度についてみると、最低でも一〇%(参考例8と実施例1との比較)、最高では六二・五%(参考例9と実施例2との比較)の差があり、これに参考例では少なくとも四回蒸留を行つており、引用例記載の発明よりはるかに高度に精製されていることをも考慮すると、本願発明の奏する作用効果は極めて顕著である旨主張する。
前掲甲第二号証の一によれば、実施例1にいう塔頂から取り出したものと参考例中酸度の最も優れた参考例8において管8から取り出したものとの酸度を比較すると、実施例1において塔頂から排出されたイソホロンの酸度は〇・〇〇一八%、参考例8において管8で採取したイソホロンの酸度は〇・〇〇二%であることが認められるが、その差異は極めて小さいのみならず、参考例8の酸度は〇・〇〇二%と小数第三位まで測定されているのに対し、実施例1の酸度は〇・〇〇一八%と小数第四位まで測定されているところからみて、参考例8の酸度〇・〇〇二%という数値は小数第四位が四捨五入されている可能性が大きいこと(このことは原告も認めて争わない。)を考慮すればその数値は小数点第四位では〇・〇〇一五%ないし〇・〇〇二四%の範囲内にあり、実施例1の酸度はこの範囲に包含されることになることからみて、両者には格別有意の差異が存しない(着色度が同等であることは、原告も争つていない。)ことが明らかである。また、蒸留回数が多ければ当然純度が高いイソホロンが得られるという証拠は存しないし、引用例記載の発明によつて得られるイソホロンの純度が極めて高いことは前述のとおりであるから、蒸留回数の違いから両者の奏する作用効果に顕著な差異が生じるものとも認め難い。
したがつて、本願発明において、前記イないしニの工程を付加してみても、格別顕著な作用効果を奏するものとは認められないから、その技術的意義を見いだし難く、結局、本頭発明の相違点<2>に係る構成は、当業者が必要に応じて容易になし得た程度のことというべきであつて、「イ~ニの処理を採用する点に格別の困難性があつたものとすることはできない」とした審決の認定、判断に誤りはない。
3 前記本願発明の要旨によれば、本願発明は「合成工程で得られた粗イソホロン含有混合物を蒸留して、アルカリ性薬剤、アセトン及び存在する水の大部分を除去し次いで前記蒸留工程から得られたイソホロン含有混合物を加熱下、酸型イオン交換樹脂で接触的に処理することにより無色でかつ安定なイソホロンを製造する方法」であるところ、アセトン、水は低沸点不純物であつて塔頂生成物として除去することができるが、アルカリ性薬剤は不揮発性の高沸点不純物であつてこれを蒸留塔頂より除去することはできない(このことは被告も争つていない。)から、本願発明においては、酸型イオン交換樹脂での接触的処理に先立ち、低沸点不純物を塔頂から除去する蒸留と高沸点(不揮発性)不純物を塔底から除去する蒸留との二操作を必要とすることが明らかである。
したがつて、本願発明と引用例記載の発明との相違点<1>は、酸型イオン交換樹脂による接触的処理に先立ち、本願発明では高沸点不純物であるアルカリ性薬剤を塔底生成物として、低沸点不純物であるアセトン、水を塔頂生成物として、それぞれ蒸留により除去し、酸型イオン交換樹脂による接触的処理工程からの流出液について前記イないしニの処理を行つた後、蒸留により、供給口より上方の位置で目的物であるイソホロンを回収することにより塔底生成物である高沸点不純物から分離するものであるのに対し、引用例記載の発明においては、酸型イオン交換樹脂での接触的処理に先立ち、高沸点留分を塔底生成物として除去し、酸型イオン交換樹脂による接触的処理を経た後、蒸留により、イソホロンを塔の仕込導入位置より下の点から回収することにより低沸点不純物から分離するものである点において相違すると認定すべきである。
この点、審決の相違点<1>の認定は正確でないが、前記審決の理由の要点によれば、審決は、本願発明の相違点<1>に係る右の構成について、引用例記載の発明とは当業者が容易に選択し得る程度の差異と判断しているものと理解できるから、審決の結論に影響を及ぼす違法が存するか否かは、その相違点<1>の判断が正当であるか否かに帰着するというべきである。
そこで、審決の相違点<1>の判断の当否について検討する。
成立に争いのない乙第五号証(昭和五二年特許出願公開第五一三四二号公報)によれば、本件出願前、アルカリを触媒としたアセトンの縮合によるイソホロンの製造法とイソホロンを反応生成物から分離する方法とは、周知慣用の技術であり、その製造工程において粗イソホロン生成物は、二種類の蒸留処理により純化される、すなわち水と低沸点分とを含まないようにトツピングにより純化され、また、高沸点分からテイリングによつて純化されることは当業者によく知られていること(第二頁右下欄第六行ないし第三頁左上欄第一一行)が認められる。このことは、前掲甲第二号証の一、三によれば、本願明細書にも、「精製すべきイソホロン含有物はアセトン縮合反応器から流出する反応混合物からまず未反応のアセトン、大部分の反応水及び縮合反応触媒であるアルカリ性薬剤を除去した粗イソホロンと呼ばれる混合物である。」(本願明細書第六頁末行ないし第七頁第五行、平成一年七月二八日付け手続補正書第三頁第一三行ないし第一六行)と記載されていることからも明らかである。
そうであれば、本願発明において、酸型イオン交換樹脂による接触的処理に先立ち、高沸点不純物であるアルカリ性薬剤を塔底生成物として、低沸点不純物であるアセトン、水を塔頂生成物として、それぞれ蒸留により除去し、次いで酸型イオン交換樹脂による接触的処理工程を実施することは格別のことではない。もつとも、本願発明においては、酸型イオン交換樹脂による接触的処理工程からの流出液について前記イないしニの処理を行つた後、さらに減圧蒸留を実施しているが、これは本願発明が右イの工程を付加したことにより生じる着色不純物が中和されてなる不揮発性の塩のうち、ハないしニの工程で除ききれなかつた分を除去するためであることは、原告の認めるところであり、この減圧蒸留は本願発明が右イの工程を付加したことに伴い生じた高沸点不純物を除去するため前記周知慣用の技術を採用したにすぎないことが明らかである。
そして、本願発明において、前記のような蒸留処理を行うことによつてもその結果得られたイソホロンの製品としての着色度、酸度等に格別の顕著な効果を奏するものでないことは、前述のとおりである。
したがつて、本願発明において不純物を蒸留により除去するために前記相違点<1>に係る構成を採用することは当業者が容易に選択し得る程度のことといえるから、相違点<1>についての審決の認定、判断に審決の結論に影響を及ぼす誤りは存しない。
4 原告は、本願発明によつたからといつて、格別優れた効果がもたらされるものではない、とした審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、実施例と参考例との酸度には格別有意の差異が存しない(着色度については、原告も争つていない。)こと、蒸留回数が多ければ当然純度が高いイソホロンが得られるという証拠は存しないし、引用例記載の発明によつて得られるイソホロンの純度も極めて高いものであるから、蒸留回数の違いから両者の奏する作用効果に顕著な差異が生じるものとも認め難いことは、前記2において判示したとおりである。
したがつて、本願発明が格別優れた効果を有するものではない、とした審決の判断に誤りはない。
5 以上のとおりであるから、本願発明と引用例記載の発明との相違点<2>及び<1>について審決の判断に誤りはなく、また、審決が本願発明の奏する顕著な作用効果を看過したものとはいえないから、審決には原告主張の違法は存しない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担及び上告のための付加期間の付与について、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第一五八条第二項の各規定を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)
別紙図面一
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別紙図面二
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